中村歌江の想い出
前回の記事で書いた俳優祭で思い出されるのが、中村歌江という歌舞伎俳優です。この方、一時期は俳優祭の名物となった芸の持ち主で、知る人ぞ知るといった存在でした。
歌江は昭和の歌舞伎を牽引した名女方・六代目中村歌右衛門に入門、当時の人にしてはけっこう大柄でしたが、女方として独特の存在感を示し、また師匠の後見(舞台上で次に使うものを渡したり、逆に不要なものを片づけたりするなど演技者を補助する役割)もよくやって名人とされていました。2016年に亡くなりましたが、晩年には貴重な脇役の女方として重要な役にも挑んでいました。
この人がなぜ俳優祭の名物となったかというと、いわゆる隠し芸として、多くの名優たちのものまねをしていたのです。各俳優のしぐさの癖やせりふの言い回しなどを本当にうまく真似ていて、中でも師匠の歌右衛門の真似は絶品とされていました。1992年9月の歌舞伎座の公演で『三世相錦繍文章』という演目が上演された時にも「三途川の婆」という役で出演し、ものまねを披露していました。
本業以外にもちょっと面白い芸を持っていた人というのは昔はけっこういたようですが、さすがに最近では難しそうです。こういうのももはや懐かしい想い出として語るものでしょう。